ライフサイエンス研究とその周辺に関する個人のブログです

砂糖に代わるダイエット甘味料を作るには、舌と一緒に腸を騙さなきゃ?

砂糖が舌に結合すると、その情報が神経を通じて脳内に伝えられ、「甘味」の感覚が生まれます。ただ砂糖は「甘味」だけでなく、脳内にある種の快感を生み出します。人工甘味料も、砂糖と同じように舌に結合し、いわば舌を騙すことで甘味覚を生み出します。ただ不思議なことに、人工甘味料は、砂糖と同じような快感というか、また食べたい、もっと食べたい、という脳の状態は生み出しません。砂糖だけが引き起こすこの状態を、ここでは嗜好性と書きましょう。上記のことから、砂糖の嗜好性は甘味覚とは別経路でつくられるのだろうとされてきたのですが、その仕組みに関して詳しいことはわかっていなかったのです。

最近、コロンビア大学の研究チームが、砂糖が嗜好性を生じるしくみを調べ、Nature誌に報告しました(2020年4月15日)。筆頭著者はHwei-Ee TanさんとAlexander C. Sistiさんのふたり、責任著者はCharles S. Zuker先生です。

The gut–brain axis mediates sugar preference
Hwei-Ee Tan, Alexander C. Sisti, Hao Jin, Martin Vignovich, Miguel Villavicencio, Katherine S. Tsang, Yossef Goffer & Charles S. Zuker.
Nature 580, 511–516 (2020).

チームはまず、マウスを水か砂糖水を自由に選べる環境におくと、砂糖水を選び続けることを確認しました。つまり、マウスもヒトと同様に砂糖に対する嗜好性を形成するのです。面白いことに、舌で甘味を感知できないマウスでも砂糖水を選び続けることから、砂糖の嗜好性形成にはやはり甘味覚と違うしくみが関わることがわかります。もうひとつ面白いのは、砂糖水か人工甘味料水を自由に選べる環境にすると、マウスは砂糖水を選ぶようになることです。つまり、マウスにおいても人工甘味料水は、砂糖のようには嗜好性を形成しないのです。

研究チームはさらに、腸に砂糖が到達すると、迷走神経の活動を介してこれが脳のある領域に伝達されることを見出しました。この脳の領域は、延髄に含まれる尾側孤束核(cNST)という部分です。この腸脳経路によるcNST領域の活性化は人工甘味料では起きないことから、これが砂糖で嗜好性が生じる理由だろうと考えられたのです。

チームはそこで、マウス脳のcNST領域を人工的に刺激することで、まるで砂糖を与えたときのように嗜好性が獲得されるかどうかを調べました。このために、ケモジェネティクスの技術を利用し、マウスに遺伝子改変を加えることによって、特定の薬を与えるとcNST領域ニューロンが選択的に活性化できるようにしました。その結果、これによって人工甘味料に対する強い嗜好性を生じることがわかりました。「脳内cNST領域の活性化」が「砂糖に対する嗜好性の形成」に直接関わることが明らかになったのです。

整理しましょう。本研究では、砂糖摂取情報を脳に伝える経路として、舌から脳への経路に加え、腸から脳への第二の経路があることを明らかにしました。研究チームは、われわれの身体がこのような嗜好性獲得に働く第二の経路を持つことで、砂糖という必須エネルギー源を確実に、継続して摂取するようにしているのではないかと書いています。

人工甘味料は広く利用されますが、肥満や糖尿病を制御するのには完全ではありません。本論文の筆頭著者、Hwei-Ee Tanさんは、「この研究は舌と脳を一緒に騙す新しい甘味料の開発に道を開くだろう」と述べています。また、「腸脳間経路を調節して砂糖への欲求を制御する戦略」にも重要だろうともしています。

確かに、「何とかゼロ」と名のつくダイエット飲料がなぜか砂糖と全く同じに感じられないのは、腸からの第二経路が刺激されないからなのかもしれません。Tanさんが述べるように、味覚と腸脳経路の両者を刺激し、「快楽」も引き起こすことのできる人工甘味料が開発できれば、もっともっとと食べ続けてもカロリー摂取には結びつかない夢のようなスイーツができるかもしれないですよね。

あるいは逆に、これもTanさんが述べるように、腸脳経路を抑える薬ができたとしたら、本物の砂糖が入ったケーキやドーナツを食べたとき、甘いんだけど別にもっと食べたいと思わないんだよね、という状況をつくることが可能となり、肥満や糖尿病の良い治療薬になるのかもしれないですね。

最新情報をチェックしよう!