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脂質も血糖も低下させ、しかも痩せられる薬になる? USP20阻害薬

脂質異常症糖尿病、そしてこれらと関係する肥満までをも一緒に治療できるかもー-。今回はそんな発見にいたった研究をとりあげましょう。面白いことに、決して最初からこのような発見を目指したわけでなく、コレステロール生合成の仕組みに関する研究が、思わぬ展開を見せたのです。

コレステロールは細胞膜の成分となるほか、ホルモンの原料にもなるなど、私たちの体に必須の物質です。ただ、血液中の高すぎるコレステロールは心臓病のリスクとなるので、これを下げる治療がおこなわれるのです。もちろん食事からも吸収されますが、コレステロールは体内でも作られます。コレステロール生合成には多くの反応が必要ですが、中でもHMG-CoA(エイチエムジー・コーエイ)還元酵素HMG-CoA reductase: HMGCR)が担う反応が重要です。実際HMGCRの阻害薬は血中コレステロール値を低下させる作用をもち、「スタチン」と呼ばれる治療薬として世界中で使用されるのです。

今回の研究ではまず、肝臓におけるHMGCRの働きの調節に新しい仕組みが関わることが示されました。そしてこの仕組みに関わるUSP20という分子の機能を阻害すると、血中コレステロール値が下がることも判明しました。しかも驚いたことに、USP20阻害により、コレステロール値低下以外にもさまざまな好ましい効果が見られるというのです。本研究は、2020年11月11日、Nature誌で公表されました。筆頭著者はXiao-Yi Luさん、Xiong-Jie Shiさん、Ao Huさん、Ju-Qiong Wangさんの4人、責任著者はBao-Liang Song先生で、中国の武漢大学の研究チームからの論文です。

Feeding induces cholesterol biosynthesis via the mTORC1–USP20–HMGCR axis

Xiao-Yi Lu, Xiong-Jie Shi, Ao Hu, Ju-Qiong Wang, Yi Ding, Wei Jiang, Ming Sun, Xiaolu Zhao, Jie Luo, Wei Qi & Bao-Liang Song

Nature: 11 November 2020

最初に少し、タンパク質分解とユビキチンについて説明しておきましょう。

役割を終えたタンパク質や不良タンパク質を処理する細胞機構のひとつに、プロテアソームでの分解システムがあります。この仕組みでは、分解されるべきタンパク質に目印がつけられると、プロテアソームという酵素複合体に運ばれ、そこで分解されることが知られるのです。この目印となるのがユビキチンというタンパク質であり、分解されるタンパク質に順次、数珠状に付加されるのです。ただ、タンパク質のユビキチン化は不可逆的ではなく、これに拮抗する反応、すなわちタンパク質に結合したユビキチンを切り離す脱ユビキチン化反応も存在するのです。したがって、各タンパク質が最終的にプロテアソームで分解されるかどうかには、ユビキチン化と脱ユビキチン化の両者が関わり厳密に調節されるのです。

研究チームはまず、マウス肝臓で食後にHMGCRのタンパク量が増えることを示すとともに(01)、空腹時の肝臓に比べ食後肝臓ではHMGCRのユビキチン化が低いことを見出しました。そしてその理由として、食後の肝臓ではHMGCRの脱ユビキチン化が亢進していることを発見したのです(02)。つまり、空腹時にはHMGCRがユビキチン化を受けプロテアソームで分解されるのに対し、食後は脱ユビキチン化の結果HMGCRタンパクが分解を免れ発現が高くなる、というのです。

そこでチームは、およそ90種のヒトの脱ユビキチン化酵素を調べました。その結果、USP20という脱ユビキチン化酵素が、肝臓でのHMGCR脱ユビキチン化を担うことを発見したのです。実際、USP20阻害剤GSK2643943Aでの処理や、USP 20遺伝子ノックダウンにより、HMGCRの脱ユビキチン化が抑えられユビキチン化が亢進し、HMGCRが分解されることがわかりました。USP20は特に肝臓に強く発現します。そこで肝臓だけでUSP20を欠失させたマウス(L-USP20-/-を調べたところ(03)、食後のHMGCR発現上昇が見られず、したがってコレステロール生合成も抑えられることが確認できました(04)。

チームは次に、食後の肝臓でUSP20が活性化される上位機構を調べました。その結果、糖摂取とその後のインスリンの作用で活性化されるmTORC1がUSP20をリン酸化する仕組みがあることを見出しました。実際に、USP20分子の変異体(S132AとS134A)を組込んだノックインマウス(USP20KI/KIを作成して調べた結果、このシグナル機構が確かにHMGCR調節に関わることがわかったのです(05)。

さて、大変意外なことに、先に書いたL-USP20-/-マウスでは、コレステロール値の低下に加え、他の脂質や血糖値も低下することが判明しました。そこでチームは、USP20がより広範な代謝活動に関わる可能性を調べました。この目的のため、マウスに高脂肪高ショ糖食を与え調べた結果、なんとL-USP20-/-マウスとUSP20KI/KIマウスの両者では、正常マウスに比較し肝臓の脂肪蓄積量、血中コレステロール、血中中性脂肪値が低いこと、インスリン抵抗性や耐糖能が良好であること、さらにはエネルギー消費が高く体重増加が抑制されることなど、代謝に関わる好ましい現象が数多く確認されたのです。

個体レベルでのエネルギー消費増大の仕組みを調べた結果、L-USP20-/-マウスでは血中コハク酸のレベルが倍増していることがわかりました。過去の研究で、コハク酸はエネルギー消費と体温調節、さらには体重調節に関わることが報告されています。したがってL-USP20-/-マウスでは、単に肝臓でのコレステロール生合成低下だけではなく、コハク酸の増大を介してさまざまな代謝調節の変化が生じている可能性が示されたのです。

研究チームは最後に、USP20阻害剤を投与したマウスの変化を調べました。その結果、遺伝子改変マウスで見られたと同様、USP20阻害剤を経口投与したマウスでは、血清脂質値の低下、糖代謝指標の改善、コハク酸値の増加とエネルギー消費の亢進が確認できました。さらにチームは、高脂肪高ショ糖食餌ですでに太ってしまったマウスの治療にUSP20阻害剤が有効かも調べました。その結果、本薬剤投与により、種々の代謝指標の改善が見られたとともに、体重減少も確認できたというのです。

すごい研究だと思いませんか? もう一度本研究を整理すると、HMGCRタンパク量が変化する仕組みを調べる中で、USP20による脱ユビキチン化反応の関与がわかり、実際USP20の抑制でコレステロール値が低下したのです。ここまでは良いでしょう。ただ、USP20を抑制すると、脂質代謝に限らず糖質代謝も改善し、さらにはエネルギー消費や体温調節も巻き込んで結果的に体重も減らせるというのです。しかもこの変化は、USP20遺伝子改変マウスだけでなく、USP20阻害剤を投与したマウスでも見られるのです。

スタチンを内服する脂質異常症の方で、肥満もあり、血糖値も中性脂肪も高く、もっと体重を減らさないと・・と言われる方、珍しくないですよね。ただ、残念ながら、スタチンにはこれら全てを改善する効果はありません。もっと言えば、スタチンのコレステロール改善と心疾患予防効果は明白であるものの、スタチンが糖尿病発症を増やす可能性を指摘する研究もあるのです。これを考慮すると、代謝異常を複数まとめて改善できる可能性をもつUSP20阻害剤は、画期的で魅力的ですよね。本研究で明らかになったことがヒトにも当てはまるかの検証も含め、これからの関連研究の進展に注目していきたいと思います。

補足

01:研究チームは、HMGCRタンパク量の増加がmRNAの増大だけで説明がつかないことから、転写後調節、特にタンパクレベルでの調節に着目したのです。

02:この時点では、空腹時肝臓でユビキチン化反応が亢進している可能性と、食後肝臓で脱ユビキチン化反応が亢進している可能性との両者がありました。そこでチームは、空腹時肝臓と食後肝臓のこれら反応を比較し、食後肝臓における脱ユビキチン化反応が亢進していることを明らかにしたのです。

03アルブミン(Alb)を発現する肝細胞でUSP20発現を欠失させるため、Alb-CreマウスとUSB20-floxedマウスを交配させて作成したマウスを使用しています。

04:研究チームは、このL-USP20-/-マウスを用いて、他にもいくつかの現象を見出しました。たとえばこのマウスでは、SREBP1Cや脂肪酸生合成に関わる遺伝子、および転写因子LXRaとLXRbの標的遺伝子群の発現が低下していることを示しています。

05mTORC1(mechanistic Target Of Rapamycin Complex 1)は、mTOR キナーゼとRaptorなどの調節因子で構成される複合体です。mTORC1の活性は、インスリンシグナルなどの下流で活性調節を受けることが知られています。研究チームは本研究で、mTORC1がUSP20のセリン残基(Ser132とSer134)をリン酸化することを見出しました。最終的にはUSP20分子のSer132とSer134をAlaに置換した変異体(S132AとS134A)をノックインしたマウス(USP20KI/KIマウス)を作成し、このシグナル経路が関与することを直接的に示しました。つまりこの変異マウスでは、食後にmTORC1が働いてもUSP20のリン酸化が生じず活性化されないので、L-USP20-/-マウスと同様、血中コレステロール値が低下するのです。

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