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細胞死の最終段階で細胞膜を崩壊させるNINJ1

私たちの体内では膨大な数の細胞が毎日新しく生まれる一方で、同じくらいの細胞が死んでいきます。では一体、細胞はどのように死んでいくのでしょうか? 今回は、死に至る最終段階で、細胞がいかに自身を崩壊させるかの仕組みについて取り上げてみましょう。

細胞死には色々なタイプがあります。アポトーシスと呼ばれる「プログラム細胞死」の研究が大きく進んだ時代には、それ以外の細胞死はネクローシスと呼ばれ、その仕組みがよく知られていなかったようです。ただ、アポトーシスとネクローシス両者の研究が進むにつれ、ネクローシスが決して単純でないこともわかってきました。そしてネクローシスの中にもさらに異なる細胞死 ―これらはパイロトーシスネクロプトーシスと呼ばれますー があり、それぞれが特別な分子を必要とする細胞死だとわかってきたのです(01)。ちょっとややこしいですよね。でも今回のお話は、パイロトーシスの研究から始まり、他のタイプの細胞死にも関係するものなので、もう少しおつきあいください。

背景の説明を続けましょう。細胞が死ぬとき、すべての成分が手品のように一瞬で消滅するはずはないですよね。ではそのプロセスはどういうものなのでしょうか? たとえば細菌感染が生じ、われわれの体の免疫細胞(マクロファージなど)が死ぬ際に、パイロトーシスという細胞死が引き起こされます。パイロトーシスではまず、(1) マクロファージ細胞膜に小さな穴(孔)が開き、小さな分子が放出されます。またこれに続くステップとして、(2) 細胞膜全体が崩壊し、細胞内容物の多くが放出されるのです。このように、細胞残骸の存在を周囲に知らせることで、その分解処理だけでなく免疫応答も誘導し、細胞死の原因となった細菌排除にも重要な役割をもつというのです。「死ぬのだからあとはどうなっても良い」ということではなく、「きちんと死ぬ」仕組みがあるって、すごいですよね。

さて、パイロトーシスのプロセスの(1)、すなわち小さな孔から分子放出が起きる過程の研究はある程度進んでいますが、後者の(2)、つまり細胞膜崩壊の仕組みはほとんど明らかになっていませんでした。ごく最近、このステップに関わる分子NINJ1を同定し、その仕組みを調べた研究が報告されました。細胞がきちんと死ぬ最終執行の仕組みを示した本研究は、2021年1月20日、Nature誌で公開されました。筆頭著者のNobuhiko Kayagaki先生は責任著者も兼ね、もう一人の責任著者はVishva M. Dixit先生で、米国のバイオベンチャー企業ジェネンテック社からの論文です。

NINJ1 mediates plasma membrane rupture during lytic cell death

Nobuhiko Kayagaki, Opher S. Kornfeld, Bettina L. Lee, Irma B. Stowe, Karen O’Rourke, Qingling Li, Wendy Sandoval, Donghong Yan, Jing Kang, Min Xu, Juan Zhang, Wyne P. Lee, Brent S. McKenzie, Gözde Ulas, Jian Payandeh, Merone Roose-Girma, Zora Modrusan, Rohit Reja, Meredith Sagolla, Joshua D. Webster, Vicky Cho, T. Daniel Andrews, Lucy X. Morris, Lisa A. Miosge, Christopher C. Goodnow, Edward M. Bertram & Vishva M. Dixit

Nature: 20 January 2021

パイロトーシスについてもう一度書いておきましょう(02)。最初のステップでは、マクロファージ細胞膜に小さな孔が形成され、この孔を通過できる小さな分子が放出されます。放出される有名な分子にはインターロイキン-1β(IL-1β)があります。これに続くステップ2では細胞膜全体が崩壊します。この現象はplasma membrane rupture(PMR)と記されます。細胞膜が破裂、破綻、崩壊するイメージで良いと思いますが、細胞が形態を維持できなくなる細胞死の最終局面であり、これにより多くの細胞内容物も放出されます。PMRの指標としては、放出された乳酸脱水素酵素(LDH)HMGB1(High-mobility group box 1: HMGB1)の定量がしばしば解析に使われます(03)。

研究チームはまず、フォワード・ジェネティクスの手法を用いて、PMRに関連する分子をスクリーニングしました(04)。言い換えると、マウスにランダムな遺伝子変異を誘導し、その中でPMRの異常を生じるマウスを探したのです。実際には各マウスのマクロファージを採取し、これに処置を加えてパイロトーシスを誘導し、通常見られる細胞死にともなうLDH放出が見られなくなったマウスを選別しました。そしてこのようなマウスの遺伝子解析をおこなうことで、最終的にNINJ1の同定に至ったのです。NINJ1(nerve injury-induced protein 1)は、神経組織の修復に関わる分子として発見され、その後はさまざまな細胞での機能が知られてきたようですが、細胞死に関わる機能についての報告はなかったようです。

NINJ1変異マウスだけでなく、NINJ1ノックアウトマウス(NINJ1 KOマウス)のマクロファージでも、パイロトーシス誘導によるLDH放出が見られなくなるなど、PMRの異常が見られました。面白いことに、NINJ1 KOマウス細胞では、パイロトーシス誘導時のIL-1β放出は普通に起こります。このことは、NINJ1の働きがPMRに必要であるものの、パイロトーシスのステップ1には関係ないことを示しています。

次に研究チームは、NINJ1が細胞死の際の形態変化に関わる様子を調べました。パイロトーシスを誘導した通常細胞では、細胞が運動を止め、膨張し、最終的に崩壊して死にます。ところがNINJ1 KOマウス細胞では、運動が停止し、膨張を示すものの、細胞崩壊が生じにくくなるのです。膨張した細胞が、そのままでいるわけですから、なかなか特徴的な表現型ですよね。大変興味深いことに、研究チームはこの時点で細胞はすでに死んでいると考えられるとし、したがってNINJ1がPMRを引き起こすのは細胞死後のことだとしています。

チームは次に、NINJ1の機能欠失で細胞崩壊が阻害されると、数多くの分子が放出されなくなることも示しました。NINJ1 KOマウス細胞では、パイロトーシス誘導刺激後も、HMGB1を含む様々な種類の分子放出が抑えられていました。重要なことに、研究チームはある種の細菌感染症に対しNINJ1 KOマウスが脆弱になることを示しました。このことから、NINJ1がPMRを誘導することは、死細胞が放出した物質による免疫応答の誘導、ひいてはこれによる感染制御に重要だとしたのです(05)。

PMRは、パイロトーシスに特有な現象ではなく、他の細胞死でも見られます。そこでチームは、NINJ1が他の細胞死にも関与するかを調べました。その結果、ネクローシス誘導刺激やアポトーシス誘導刺激の作用を調べる実験においても(06)、NINJ1 KOマウス細胞からのLDH放出が減少することがわかりました。すなわちNINJ1によるPMRが、パイロトーシス以外の細胞死の少なくともいくつかには関わることがわかったのです。

チームは最後に、2回膜貫通型の細胞膜タンパク質であるNINJ1がPMRに関わるメカニズムに迫ります。その結果、N末端側に想定されるαヘリックス構造を介し、NINJ1がオリゴメリゼーションを生じることが、細胞膜の破綻に関わるのではないかとしています。

整理しましょう。本研究では、パイロトーシスの2段階目として生じるPMRに関わる分子として、NINJ1を同定しました。そしてNINJ1が細胞死における形態崩壊や、数多くの分子放出や、それを介する周囲の免疫応答に関わること、さらにはNINJ1がパイロトーシス以外の細胞死にも広く関与することを明らかにしました。

まずはNINJ1のパイロトーシスへの関与が示されたことから、この研究が今後進めば種々の感染症の病態解析などに広がる可能性がありますよね。個人的には、NINJ1によるPMRは細胞が動かなくなった後、つまり細胞が生命活動を終えた後に生じるのだろうという点に興味をもちました。NINJ1という分子が、自身を発現する細胞が死んだあとにもかかわらず、そのことを周囲にきちんと伝え、周辺を綺麗にしてもらうために働いている様子を想像したら、何というか、細胞活動の巧妙さというか尊さというか、そういうものを感じてしまいます。

補足

01: アポトーシスはapoptosis、ネクローシスはnecrosis、パイロトーシスはpyroptosis、ネクロプトーシスはnecroptosisです。お気づきと思いますが、「ptosis」と含まれる場合のカタカナ表記に「プ」を入れるかどうかは統一していません。実際は、アポプトーシス、パイロプトーシスと発音する人、そして文章上もそう記載する人もいるようです。逆に、ネクロプトーシスをネクロトーシスとするものもあるようです。本ブログでは、何となく頻用されている印象がある方を使いました。日本語表記で何かルールがあるかまでは調べていません、どなたかご存知ならば教えてくださいませ。

02: パイロトーシスは、感染に際し免疫細胞で見られる細胞死の形として良く知られます。Caspase-1という酵素の活性化に続き、ガスダーミンD(Gasdermin D; GSDMD)が関わり細胞膜の孔(pore)が形成されます。この第1ステップで形成された孔(径18ナノメートルくらい)を通して、IL-1βIL-18などが放出されるとされています。

03: HMGB1は、通常は主として細胞核に局在するタンパク質です。ただ、細胞外に放出された場合、炎症応答を促進する因子としても知られています。したがってHMGB1は、死滅した細胞から細胞外に放出されることにより、死んだ細胞の存在を周囲の細胞に伝える役割を持つ分子、アラーミン(アラームする分子)と呼ばれる分子にカテゴライズされるのです。

04: ランダムな突然変異を導入した多数のマウスの表現型を調べ、遺伝子同定を目指す方法です。本研究ではENU(N-ethyl-N-nitrosourea)という化学変異原を用いてマウスのゲノムDNAにランダム点突然変異を誘導したのち、交配で得られた次世代以降のマウスを解析しました。本研究はplasma membrane rupture(PMR)に異常を来す分子の探索が目的です。したがって、得られるマウスから骨髄由来マクロファージを採取し、これをTLR2のアゴニストPam3CSK4でプライミングしたのち、LPSを注入することでパイロトーシスを誘導しました。通常ならばこれで細胞死が誘導され、PMRの結果としてLDHが放出されますが、その障害を来すマウスを選別し、原因遺伝子の同定に持ち込んだのです。

05: C. rodentiumは(シトロバクター・ロデンティウム)というマウス特有の病原菌で、感染性大腸炎を誘導する細菌感染モデルで調べました。その結果、NINJ1 KOマウスが野生型マウスに比べ良好な生存を示すことがわかりました。

06: 本論文ではネクローシス誘導刺激としてbacterial pore forming toxinとしてStreptolysin O (SLO)やListeriolysin O (LLO)、アポトーシス誘導刺激としてはシスプラチンやベネトクラクスなどを調べています。

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