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ヒト胆管上皮オルガノイドの可塑性と移植利用

胆道は、胆汁(たんじゅう)の通り道です。胆汁は肝臓の細胞で作られます。したがって胆道は、肝臓の各部で細い管として始まります。これらは次第に合流し、少しずつ太くなって胆汁を運びます。小枝が幹に集まるように走行する肝臓内部のこの部分は、肝内胆管と呼ばれます。肝臓の出口で一本の管となり、ここから先は肝外胆管です。肝外胆管は、途中で胆のうを結ぶ管とも合流し、その先は総胆管と呼ばれます。したがって肝内胆管、肝外胆管、胆のう、総胆管を合わせた構造を胆道と呼ぶのです。肝細胞から分泌される胆汁は途中一時的に胆のうに貯蔵され、食事摂取後に総胆管から十二指腸に送り出され、消化吸収を助けるというわけです(図)。

今回は、管状構造をとる胆道のもっとも内腔側に並ぶ細胞、すなわち胆管上皮細胞(cholangiocytes)の再生研究を取り上げます。たとえば色々な肝疾患で肝機能が低下し、生命の維持も危ぶまれる場合には肝移植が考慮されます。ただ、肝移植が必要となる重篤な疾患の内訳を見ると、実は胆道関連の病気が結構あるのです。当たり前ですが、肝移植にはドナーが必要です。生体肝移植、死体肝移植(脳死肝移植などです)などがおこなわれますが、ドナーが慢性的に不足していることから、移植に変わる何か新しい臓器再生技術の開発が期待されているのです。

ごく最近、ヒトの胆道各部(肝内胆管、総胆管、胆のう)の胆管上皮細胞の性質を、オルガノイド技術と呼ばれる細胞培養技術を用いて詳しく調べた成果が発表されました。しかもこの研究では、ヒト胆管上皮オルガノイドを、体外で一時的に保存したヒト肝臓に実際に生着させることに成功し、オルガノイド治療が胆道組織修復に有用である可能性を示しました。新しい再生医療の可能性を提示した本研究は、2021年2月19日、Science誌で公開されました。筆頭著者は責任著者も兼ねたFotios Sampaziotis先生で、もう一人の責任著者はLudovic Vallier先生となっています。英国のケンブリッジ大学を中心とするグループによる研究です。

Cholangiocyte organoids can repair bile ducts after transplantation in the human liver

Fotios Sampaziotis, Daniele Muraro, Olivia C. Tysoe, Stephen Sawiak, Timothy E. Beach, Edmund M. Godfrey, Sara S. Upponi, Teresa Brevini, Brandon T. Wesley, Jose Garcia-Bernardo, Krishnaa Mahbubani, Giovanni Canu, Richard Gieseck III, Natalie L. Berntsen, Victoria L. Mulcahy, Keziah Crick, Corrina Fear, Sharayne Robinson, Lisa Swift, Laure Gambardella, Johannes Bargehr, Daniel Ortmann, Stephanie E. Brown, Anna Osnato, Michael P. Murphy, Gareth Corbett, William T. H. Gelson, George F. Mells, Peter Humphreys, Susan E. Davies, Irum Amin, Paul Gibbs, Sanjay Sinha, Sarah A. Teichmann, Andrew J. Butler, Teik Choon See, Espen Melum, Christopher J. E. Watson, Kourosh Saeb-Parsy, Ludovic Vallier

Science: 19 February 2021

最初にまとめてしまいましょう。本研究の成果の要点は2つです。ひとつはヒト胆道の各部、すなわち肝内胆管、総胆管、および胆のうの内側から胆管上皮を採取して調べ、それぞれが部位別に異なる性質をもつ一方で、オルガノイドにするとその多様性を失い、胆管上皮として共通する性質をもつことを示したことです。もうひとつは、そのようなヒト胆管上皮オルガノイドを移植すると、胆道各部の環境に適応する可塑性を示すこと、しかも実際にヒト肝臓内でダメージを受けた肝内胆管上皮を移植オルガノイドが修復できる可能性を示したことです。

それでは順に見ていきましょう。

研究チームはまず、ヒトの肝内胆管、総胆管、および胆のうから採取した胆管上皮細胞を用いて、シングルセルRNAシーケンス(single cell RNA sequence: scRNA-seq)解析をおこないました(01)。その結果、この3者が胆管上皮として共通の遺伝子群(研究チームはこれをコア転写プロファイルとしています)を発現する点で類似し、たとえば肝臓内の非胆道細胞とは異なる集団であることがわかりました。一方、より詳細に比較すると、3者それぞれが異なる遺伝子発現パターンをもつことも明らかになりました(02)。研究チームは、3者の中では肝内胆管と総胆管の2者がより類似している、ともしています。解剖学的に近接し、置かれた環境が似ていることが、これら3者の遺伝子発現の類似度の違いをつくるのだろうとしています。

次に研究チームは、これら3つの部位から得たヒト胆管上皮細胞を材料とし、オルガノイド培養をおこないました。ここ10年ほどの研究により、生体細胞や発生過程にある細胞を、栄養、増殖因子、それから細胞をとりまく物質(細胞外基質と呼ばれます)を整えた適切な環境に配置して、オルガノイドと呼ばれる構造として体外培養する手法が次々と開発されました。体外であっても適切な環境さえ供給されれば、細胞は自身が生体内にあるかのように、特徴的な構造を形成する自己組織化能を発揮するというのです。このような技術で形成される体外培養体は、構造だけでなく機能の点でも特定の器官(オルガン)に類似するので、オルガノイドと呼ばれます。この研究チームは過去に、胆管上皮細胞をオルガノイド培養する技術を開発し、公開していたのです(Sampaziotis F et al. Nat Med 2017)。

さて、3つの部位の胆管上皮をオルガノイド培養し、その遺伝子発現パターンをscRNA-seqで調べたところ、面白いことがわかりました。3者すなわち肝内胆管、総胆管、および胆のうに由来するオルガノイド細胞は、採取直後の3者が類似する以上に似ているというのです。もう少し説明すると、採取直後の3種の胆管上皮細胞は、生体内でそれぞれが置かれる環境に適応し、それぞれの個性というか、部位特異性をもつのです。ところが、オルガノイド培養環境ではその多様性が失われる一方、胆管上皮細胞としての「コア転写プロファイル」の共通性が際立つことで、類似性が高まるというのです。研究チームは、このことが大変面白い現象を示している可能性があると考えました。つまりこの3部位に由来するオルガノイドは、胆管上皮としての性質を共有しながらも、状況に応じては相互変換可能な関係、すなわち可塑性をもつ関係にあるのではないかと考えたのです。

マウスへのオルガノイド移植実験により、まさにこの仮説が正しいことが示されました。チームは、肝内胆管や肝外胆管障害を引き起こすマウスモデルを作成し、ここに、胆のう由来胆管上皮オルガノイドを移植しました。もちろん、ヒトオルガノイドをマウスに移植する実験なので、拒絶反応が生じないよう免疫不全マウスをレシピエントとして用いています(03)。その結果、「胆のう」由来オルガノイドが、肝内胆管に生着し、しかもその遺伝子発現パターンが肝内胆管上皮細胞パターンに変化したことがわかるなど、オルガノイド細胞の可塑性が示されたのです。

逆の実験もおこないました。つまり、総胆管由来オルガノイドを培養し、これを胆のうに移植したのです。この場合もやはり、移植細胞は総胆管としての特徴を失う一方で、胆のう上皮細胞としての性質を獲得することが確認できました。

チームは最後に、胆管上皮オルガノイドがヒト肝臓における胆管上皮再生に利用できるかを調べました。そのために、常温機械灌流(Normothermic machine perfusion; NMP)と呼ばれる方法で体外保存したヒト肝臓内に、培養した胆管上皮オルガノイドを移植する実験をおこなったのです。ヒト肝移植手術に用いるドナー肝臓はこれまで、氷上の冷却液中で保存する方法が用いられていました。ただ、摘出肝を機械灌流して体温で維持するNMP法が開発され、冷蔵による品質劣化で廃棄される肝臓を減らすことが示され(Nasralla D et al., Nature 2018)、少なくともヨーロッパではすでに実用化に至っているようです。本研究では、NMP法で保存されたヒト肝臓を移植モデルに利用し、胆管側から注入したオルガノイドが胆道上皮再生に貢献できるか否かを調べたのです(04)。その結果、移植したオルガノイドがヒト肝内胆管に生着することがわかりました。しかも、移植した胆のう由来オルガノイド細胞は、先のマウス実験の時と同様、胆のう上皮パターンの遺伝子発現特性を失う一方で、肝内胆管パターンのそれを獲得しました。しかも、胆管内部の胆汁分析結果から、生着した移植細胞は、遺伝子発現のみならず実際に胆管上皮機能を獲得したことも示されたというのです。

異なる胆管部位由来上皮をオルガノイド培養すると、胆管上皮としての性質は維持されるのに部位別特性は失われるとの現象、面白いですよね。今後は分子機構の研究が進むと一層面白いなぁと思います。臨床的視点で見たとしても、肝内胆管異常がメインの病態となる疾患では、本人の胆のう上皮由来オルガノイドを培養して移植するなど、必要な部位の治療を別の部位のオルガノイドでおこなう自家移植戦略にもつながる可能性を示していて、こちらも興味深いですよね。

NMP法で保存したヒト肝臓に実際オルガノイドが生着し、肝内胆管上皮としての性質を示したという最後のデータは、オルガノイド利用再生医療が着実に臨床応用に近づいていることを強く示していますよね。この領域の今後の研究にも注目したいなと思います。

補足

01: 生体は多様で多数の細胞の集まりです。基本的に全ての細胞が同じゲノム情報をもつにもかかわらず、個々の細胞の働きや性質が違うのは、細胞がそれぞれ異なる遺伝子(mRNA)セットを発現することに起因します。逆に言えば、多様で膨大なmRNAからなる研究試料がある場合、そこに含まれる何千何万というmRNAの種類とその量を知ることができれば、このmRNAがどういう組織や細胞に由来するかを推定したり、プロファイリングしたりすることができるのです。ごく微量のmRNAを高精度で解析する手法が進み、今やmRNAの発現を個々の細胞レベルで区別し解析するscRNA-seq解析が広く利用可能となったのです。

02: scRNA-seqデータをUMAP(uniform manifold approximation and projection)法と呼ばれるアルゴリズムでの次元圧縮とpartition-based graph abstraction (PAGA)分析という細胞相関マッピング法により解析しています。

03: NSGマウスという免疫不全マウスに4,4′-methylenedianiline (4,4′-MDA)という薬剤を腹腔投与して胆管障害を誘導しています。移植は、胆管内にオルガノイドを注入しておこなっています。

04: 本研究はもちろん、承認を受けた実験としておこなわれています。具体的には、本来は移植ドナー用として提供を受けたものの、実際には使用されることのなかったヒト肝臓をこの実験に用いたと記載されています。NMP法で保存するヒト肝臓においては、胆管内胆汁を酸性にすると(pH < 7.5)胆管上皮障害が起こるようです。したがって本実験では、酸性胆汁を注入し上皮障害を作成したのちに、ヒト胆のう由来オルガノイドを注入移植したのです。移植オルガノイドが少なくて良いように、オルガノイド注入は末梢の細い肝内胆管領域におこなったとし、注入後100時間までに解析を加えたとしています。

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