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Tリンパ球が腸での栄養吸収を調節する

今回は、腸での栄養吸収に関する研究をとりあげましょう。私たちが飲んだり食べたりするものは、胃や小腸で消化され、吸収されます。たとえば炭水化物は小さな糖質に、タンパク質は小さなペプチドやアミノ酸にまで分解され、腸の壁を通して吸収されるのです。ほとんどの栄養素は小腸で吸収されます。この最初のステップは、栄養素が小腸の一番内側の上皮層に取り込まれることです。当然ですが、小さな分子であれば何でも吸収されるわけではありません。小腸上皮層を構成する細胞は、糖質、ペプチド・アミノ酸、脂質あるいはビタミンなどの栄養素をきちんと見分け、上皮細胞内に取り込み、そして体側に輸送するのです。

今回取り上げる研究は、摂取する食事内容によって小腸上皮細胞の働きが変わるのではないか、という疑問から開始されました。すなわち、炭水化物を多くとる場合には糖質吸収に適した細胞に、あるいはタンパク質を多くとる場合はそれに適した細胞に、上皮細胞そのものが適応するのではないかというのです。もう少し言い換えると、食事内容の変化が、小腸上皮における特定の栄養素の輸送体(トランスポーター)酵素分子の発現変化を促し、食事パターンにうまく合わせた栄養吸収に備えるのではないかと考えたのです。これまでにもたとえば、乳糖代謝に関わるラクターゼという酵素が、乳糖摂取が減る大人の小腸では発現低下するなど、個別の例は知られていました。が、小腸上皮の総合的な変化についてはあまり知られていなかったようなのです。

この研究では、高炭水化物食または高タンパク食を与えたマウスを詳細に調べ、食事内容による小腸上皮の大きな変化が生じることを示しました。そしてこれに関わる仕組みを調べたところナント、一般的には腸の免疫調節に働くとされてきたTリンパ球が、食事内容を感知し小腸上皮を変化させる仕組みにも関わることがわかったのです。免疫細胞が小腸上皮の栄養吸収機能を調節するというこの興味深い研究成果は、2021年3月19日、Science誌で公開されました。筆頭著者はZuri A. Sullivanさん、責任著者はRuslan Medzhitov先生で、米国イェール大学を中心としたチームによる研究です。

γδ T cells regulate the intestinal response to nutrient sensing

Zuri A. Sullivan, William Khoury-Hanold, Jaechul Lim, Chris Smillie, Moshe Biton, Bernardo S. Reis, Rachel K. Zwick, Scott D. Pope, Kavita Israni-Winger, Roham Parsa, Naomi H. Philip, Saleh Rashed, Noah Palm, Andrew Wang, Daniel Mucida, Aviv Regev, Ruslan Medzhitov

Science: 19 March 2021

それでは研究内容を詳しくみていきましょう。

先にも書いたとおり、研究チームはまず、高炭水化物食か高タンパク食のいずれかを与えたマウスにおいて、腸上皮がどう変化するかを調べました(01)。その結果、高炭水化物食マウスで、炭水化物の消化・吸収に必要な遺伝子群の発現が誘導されることが判明したのです(02)。チームはこの遺伝子変化パターンを「炭水化物転写プログラム」と呼びます。具体的にはこれら遺伝子には、単糖類のトランスポーター遺伝子などが含まれています。5日間の高炭水化物食でこの転写プログラムが誘導されたマウスでは、その後の炭水化物の吸収が高まることも示され、この変化が単に遺伝子発現の変化にとどまらず、実際の小腸上皮機能の変化にも関わることがわかりました。言い換えると、食事内容の変化 ― この場合は高炭水化物食への変化 ― が、その栄養吸収を促進するような小腸上皮変化を生じる仕組みがあることがわかったのです。小腸上皮細胞はそもそも均一ではなく、多種類の細胞を含みます。チームはさらに高炭水化物食マウス小腸にみられる変化を詳細に解析し、この変化が小腸上皮を構成する細胞成分の変化をともなう「上皮リモデリング」によって生じる現象であるとしています(03)。

さて、食事が高炭水化物食になると小腸上皮が炭水化物吸収に適応することがわかりました。それではこの変化は、炭水化物が直接腸上皮に働きかけることで生じるのでしょうか。実験の結果、答えはNOでした(04)。逆に非常に面白いことに、この間をつなぐ別の種類の細胞の関与が明らかになりました栄養吸収機構とは一見無関係のように思われる細胞―Tリンパ球―が、この仕組みに関わるというのです

小腸は消化・吸収の機能をもつ一方、腸内環境から生体を守るバリア機能も有しています。しかも腸は、単に物理的なバリアとしてだけでなく、色々な免疫細胞を備え、不要な物質や有害な微生物を体内に侵入させないように、積極的に選別排除する機能的バリアの仕組みを持つのです。そのような働きを担う免疫細胞の中にはTリンパ球があります。少し複雑になりますが、Tリンパ球にもさまざまな種類がある中で、腸のTリンパ球にはγδ(ガンマ・デルタ)Tリンパ球というタイプが比較的多く含まれます。このγδTリンパ球はもちろん、腸において様々な免疫機能をもつわけです。が、結論を簡潔に書くと、このTリンパ球集団が高炭水化物食を感知し、腸上皮の適応変化に関わることが明らかになったのです(05)。

研究チームはさらに、γδTリンパ球がどのように小腸上皮の変化に関わるかを調べました。その結果、高炭水化物食によってまず小腸上皮細胞でJag2(Jagged2)と呼ばれる分子の発現が高くなり続いてこの分子を認識可能なNotch受容体を発現したγδTリンパ球がその情報を受け取ることがわかりました。また、高炭水化物食を与えたマウスの腸では、実際にγδTリンパ球が小腸上皮に接近する様子も確認されました(06)。

本研究は、さらにもう一つ重要な発見をします。すなわち、γδTリンパ球が小腸上皮の栄養吸収を調節する仕組みに、IL-22というサイトカインが関与するというのです。腸には、リンパ球以外にも色々な免疫細胞がありますが、自然リンパ球(innate lymphoid cells; ILCs)と呼ばれ、特定抗原に応答するのではなく、さまざまなサイトカインを産生するなどして免疫応答に関わる細胞集団があります。ILCは大きく1-3型に分類されますが、研究チームはこの中で、ILC3が産生するIL-22が高タンパク食で増加し、上皮の炭水化物転写プログラムを抑制することを見出しました。つまり、高炭水化物食でγδTリンパ球が活性化されると、IL-22の作用が抑制され、結果として小腸上皮の炭水化物転写プログラムが活性化される回路があるというのです。

整理しましょう。本研究では、高炭水化物食や高タンパク食など食事内容の変化によって小腸上皮が大きく変化し、それぞれの栄養吸収に適応する仕組みがあることを示しました。たとえば高炭水化物食の環境では、γδTリンパ球が小腸上皮からNotchシグナルを受容し、IL-22というサイトカインの作用を抑制することで、小腸上皮の炭水化物転写プログラムを促進するのです。

面白いですよね。本研究は主に高炭水化物食と高タンパク食との間での上皮細胞変化を調べていますが、脂質など他の栄養素も含めてより詳細な食事内容の変化が小腸上皮をどのように変えるのか、そのような研究が進むことも期待されますよね。

それから何と言ってもこの研究の一番の面白さは、腸上皮による栄養吸収機能を免疫細胞という異種細胞が調節することの発見にあると思います。腸のバリア機能を担うと考えられてきたTリンパ球が、腸の栄養吸収機能も調節するということは、腸におけるこの二つの働きが、お互いのバランスが保たれる様に精密にコントロールされていることを示しているわけです。そのように考えると本研究は、さまざまな腸の病気で栄養吸収と免疫調節の両方の障害が生じる仕組みの解明にもつながるのだろうと思います。今後の展開にも注目したいなぁと思います。

補足

01: もちろん総カロリーは揃えたとしています。

02: RNAシーケンス(RNA sequence: RNA-seq)という方法で調べています。簡単に書いておきましょう。私たちそれぞれの体を構成する細胞が、基本的に同一のゲノムDNAを持つにもかかわらず、各々の細胞が異なる機能をもつ仕組みには、遺伝子発現調節が重要です。個々の細胞が同一ゲノムの中からどの遺伝子の転写をONとし、その結果どの遺伝子のmRNA発現とタンパク発現を誘導するのかによって、細胞の機能や状態が制御されているのです。このことは逆に、各々の細胞集団に発現するmRNAの種類や量を詳しく解析できれば、その細胞の種類や状態を知ることができることも意味しています。RNA-seqはこれに基づいて、調べたい組織から抽出したmRNAを詳細に調べ、ここに含まれる細胞の種類やその多寡を解析するのです。

03: 小腸上皮組織は、幹細胞から順次枝分かれして分化する複数の細胞種類を含むとされています。研究チームは、炭水化物転写プログラムが生じる仕組みとして、二つの可能性を考慮したと書いています。ひとつは、たとえば高度に分化した吸収細胞で一様にこのプログラムが作動し、炭水化物吸収への適応変化を示した可能性で、もうひとつは、複数の細胞腫の中の何か特定の細胞でプログラムが作動し、これに由来する細胞集団が相対的に増加して炭水化物吸収への適応を示した可能性です。詳しくは書きませんが、チームは後者を「組織リモデリング」と呼び、いくつかのデータを示すことによってこのリモデリングによって炭水化物吸収への適応が生じるのだろうとしたのです。

04: 小腸上皮細胞だけを培養することのできるオルガノイド技術を使い、ここにグルコースを加えることで、高炭水化物食を与えた場合と似た状況をつくったのです。しかしながらこれだけでは小腸上皮細胞に炭水化物転写プログラムを引き起こすことができないことがわかったのです。このことは、上皮における炭水化物転写プログラムの作動には、非上皮細胞の存在と関与が必要であることを示しているわけです。

05: まず、Thy1という分子に対する抗体を投与すると炭水化物転写プログラム誘導が減弱することから、Tリンパ球と自然リンパ球(innate lymphoid cells: ILCs)が関与することがわかりました。また、Bリンパ球とTリンパ球を欠失するRag2ノックアウトマウスでも同様の現象が見られることから、この両者に共通して欠失したTリンパ球集団の関与が示唆されたのです。次に、αβ(アルファ・ベータ)Tリンパ球γδ(ガンマ・デルタ)Tリンパ球のどちらのタイプの関与があるかを調べるため、抗体やノックアウトマウスを用いた結果、後者、すなわちγδTリンパ球が炭水化物転写プログラム誘導に重要であることがわかったのです。

06: Jag2(ジャグ トゥーと読まれます)など、Notch受容体に結合して情報を伝える分子はNotchリガンドと呼ばれます。Notchリガンド分子は、小腸上皮構造の中でも特に陰窩領域に発現が多いとされているようで、研究チームは実際、高炭水化物食を与えたマウスではγδTリンパ球が陰窩領域の上皮に近接して分布することを示しています。

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